rehabilitateからrebuildへ

近年、脳科学や認知行動療法の知見から、自己の身体に対する認識が痛みや不適切な運動の一因である事が推測されている。
 従来的なリハビリテーションは運動器を始め身体の構造を変化させて痛みや不適切な運動をrehablitateしようとするが、その
手法は数え切れない程提唱されている。
 
一方で、自己身体に対する認識変容すなわちボディイメージの再形成に関する手法は全く注目されていない。
 rehabilitationの語源は、re=再び habilitation=適応(ラテン語habilis)
つまり、社会に対する再適応という意味であるのに対し、ボディイメージの再形成は、今日に至るまでに形作られた自己像の破壊と再生(scrap&rebuild)の過程である。
 rehabilitateからrebuildへ。
パラダイムシフトが今、始まる。​

ボディイメージとは

 

 姿勢や運動が変容する原因として知っておくべき事に「ボディイメージ」という概念がある。

ボディイメージとは、「自分自身が自己の形態をどのように認識しているか」を表す。ボディイメージが実際の自己像と同一性が高いと、姿勢形成・身体運動が円滑に行いやすい。また、ボディイメージは以下のような感覚の基礎になる。

 

 

① 自己の輪郭

② 自分の身体の大きさ

③ 自分の身体の位置、傾き

④ 筋の緊張

⑤ 関節の角度

スポーツにおいて相手が密集しているコートをぶつからずにすり抜けたり、転ばずに走り抜けたり、相手の手にボールをぶつけずにドリブルできるのは、全てこのボディイメージの為せる技だ。バットをボールに当てる事ができるのも、バットの先端までもが自己のボディイメージと同一化して、人具一体となるからだ。

 

 車をぶつけずに乗りこなす事ができるのも、人間が自分のボディイメージを拡大する事が可能であるからだと考えられている。一般的にボディイメージの形成は、脳シナプスの形成が落ち着く6歳頃から始まると言われている。

 ボディイメージの未発達は、運動に様々な弊害をもたらす。空間における自己の存在が曖昧に感じられる事が多く、スペースを潰している事に気づくことができなかったり、微細な筋出力の調整ができないためいわゆる「ノーコン」であったり、姿勢の保持や集中力の維持が困難であるため持久力に乏しく練習が満足にできない、落ち着きなくコートを走り回ってしまう等の問題が発生する。

 

 様々な運動や、それに伴う感覚入力、情動の経験を基にボディイメージは生成されていく。日常生活において、1日に10時間程度デスクワークを行えば、その経験に基づくボディイメージが生成される。筋肉一つ一つが不適切な長さで固定される事もさる事ながら、「多様な重心移動も感覚入力も伴わない身体」として自己の認識が形成される。

 

それこそが、「身体の硬さ」や「運動のやりにくさ」の原因だ。筋の緊張や出力低下といった現象は、結果として起きているもので、それ自体は原因ではない。

運動多様性とボディイメージ

 

 「多様な重心移動も感覚入力も伴わない身体」としてのボディイメージの形成が姿勢形成や筋緊張のコントロールを阻害する原因となる事は先述の通りだ。さらにボディイメージについて理解を深める上で、「運動多様性」について知っておくべきだろう。

 

「運動多様性」とは、その言葉の通り「様々な運動のあり方」を意味する言葉であるが、これについて最もシンプルに説明できるモデルが「ヒトの動き36」であろう。

ヒトの動き36は、ヒトの運動を「まわる」から「うく」までの9つの姿勢安定運動、「はう」から「すべる」までの9つの移動運動、そして「つかむ」から「こぐ」までの18の操作運動として定義したもので、幼少期の子供達の運動から抽出されたものである。

 

 一般的にヒトは幼少期からこうした多様な運動を経験し「目的に対し適切な姿勢/筋出力のコントロール」といったものを学習していくが、成長の過程においてこれらは失われていく。自分の生活を振り返った時に、あなたは36分のいくつの運動を日常的に行っているだろうか?

 

 リハビリテーションを考える時に、「筋や関節」といった表層的な事に目を向けるのではなく、「動かない身体」というボディイメージに目を向けるべきだ。そして、「動かない身体」というボディイメージを破壊し、リビルドするにはストレッチや筋力トレーニングのような「単純作業的運動」よりも「姿勢安定・重心移動・物体操作」といった、多様性を伴うエクササイズが効果的であろう。

(「コレクティブエクササイズ〜ボディイメージ変容〜」山木 伸允 著より抜粋)